太陽光発電の普及の歴史と未来
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- 2023.10.05
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太陽電池は1954年の発明以来、大きく進化してきました。現在ではその太陽電池の姿を様々な場所で目にすることが出来ます。今回は実用的な太陽電池が誕生したのはいつなのか、またどのように進化してきたのか、さらには次世代の太陽電池はどんなものなのか、などについて太陽電池の歴史を紐解きながら解説いたします。
太陽光発電の誕生
太陽光発電の歴史は1954年にアメリカのベル研究所で実用的な太陽電池が発明されたことにより幕開けを迎えます。これを皮切りに、発明から4年後の1958年には人工衛星の電源、1977年にはソーラーカー等、様々な用途に応用されてきました。1954年の発明当初は、変換効率が6%程度に留まっていましたが、太陽電池の性能は年々進歩しており、2023年現在では一般向けのソーラーパネルで20%以上と年々変換効率が向上しております。
日本では、1955年に日本電気株式会社が日本初となる太陽電池を開発しており、これ以降も開発が進められていました。1970年代には日本は産業のコメと言われている半導体製造に注力しており、1980年代には半導体製造で世界を席巻していました。太陽電池は半導体をベースにしていますので、日本では半導体の集積回路だけではなく太陽電池の研究開発でも世界的にリードしていました。この研究開発が花開き1999年から2006年まで太陽電池の生産量が世界一となっています。
1993年に住宅用の太陽光パネルが登場しましたが、当時は1kwあたりのパネル導入コストが370万円と価格が高すぎて普及には至りませんでした。しかし、翌年の1994年には補助金制度が始まり、導入の敷居は下がり、徐々に導入する家庭も増えていきました。2000年頃になると太陽電池の性能が向上すると共に生産性も向上したために、性能が向上しながら価格が下がり出しました。
そして、太陽光パネル普及の最大の要因となった再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が2012年から始まります。このFITにより、余剰電力は電力会社に定額で売電できますので太陽光パネルを設置した方が利益がでるようになり、導入の敷居は一気に下がりました。以降、太陽光パネルは投資目的でも設置されるようになり、全国の住宅の屋根の上や休耕地、山の斜面などに太陽光パネルが設置されている光景を目にするようになりました。
太陽電池の利用の拡大
太陽電池は発明された当時は高価で一般の利用は行われませんでした。しかし、太陽光があれば発電が可能なため、僻地や宇宙系統など、送電が難しい環境下での活用がなされておりました。。
初期の太陽電池は人工衛星に搭載されました。人工衛星は軽量化が求められますので、重く充電量にも限りのあるバッテリーの搭載は不向きでした。一方の人工衛星と太陽電池の相性は抜群に良く、以降、人工衛星や宇宙ステーションでの発電には太陽光パネルが使用されています。
一般家庭向けには、1980年には三洋電機からアモルファスシリコン太陽電池を内蔵した電卓が販売されました。当時は電卓のみではなくおもちゃや時計、各種製品に使い捨ての乾電池が使用されており、電池切れで止まることは日常茶飯事でした。しかし、電卓に太陽電池を搭載することで電池切れを起こさずに使い続けることが出来るようになりました。これ以降、様々な製品に太陽電池が組み込まれるようになっています。
生産技術が向上すると太陽光パネルの価格も次第に安くなり、固定価格買取制度に伴って多くの住宅に設置されるようになりました。さらに、固定価格買取制度で発電により利益が上がりだしたことから、1000kWを超える出力を持つ大規模な太陽光発電所であるメガソーラーの建設が盛んに行われるようになりました。
出典:https://pixabay.com/ja/photos/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%85%89%E7%99%BA%E9%9B%BB%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0-%E5%A4%AA%E9%99%BD-2742305/
太陽電池に求められる用途の多様化
カーボンニュートラルの観点から、再生可能エネルギーの需要が高まり、特定のシチュエーションや製品に搭載する太陽電池という側面から、私たちの普段の生活で消費する電力の代替としての需要が高まってきております。
実際に大規模なメガソーラー施設が各地で建設されており、現在の火力発電に変わる電力源としての太陽光発電の導入が進んでいます。しかし、メガソーラー施設には広大な土地が必要であり、場所によっては森林を伐採してメガソーラー施設を建設することに批判の声も上がっております。
メガソーラー施設以外にも、助成金が設けられたりと、自宅の屋根に取り付ける一般家庭向けの太陽電池の導入も進められています。
一方で、従来のシリコン太陽光パネルは重く、体積が大きい上、設置場所を選ぶのでどこにでも設置できるわけではない、と言った欠点があります。太陽光パネルをより柔軟に安く設置することが出来れば、様々な場所に太陽光パネルを設置できるようになります。
これらのシリコン太陽電池の欠点を補うことが出来る太陽電池が、次世代太陽電池と言われているペロブスカイト太陽電池です。ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽く、柔軟性があり曲げることも出来ますので、これまでシリコン太陽光パネルを設置できなかったビルの側壁などにも太陽光パネルを取り付けて発電できるようになります。
これにより、都市部の太陽光発電量の向上が見込め、電力の地産地消により、再生可能エネルギーをこれまでよりさらに効率よく利用することができるようになります。
出典:エネコートテクノロジーズ資料(大学発ベンチャーJST2023様式B0515final)より抜粋
ペロブスカイト太陽電池で拓く太陽光発電の未来
ペロブスカイト太陽電池の実用化に伴い、様々な分野への導入が期待されています。特に期待されているEV分野と電力の地産地消についてご紹介いたします。
EV(電気自動車)への応用
EVは化石燃料を使用せず電力を動力源とするため、走行時に二酸化炭素を排出せずにクリーンな乗り物としてガソリン車からの置き換えが進められています。しかし、EVが使用する電力が化石燃料を使って発電されていたら二酸化炭素削減はありません。
このため、再生可能エネルギーを利用した発電量の増加が求められています。ペロブスカイト太陽電池が実用化されれば様々な場所に導入されるため、日本全体の太陽光発電の発電量は増えると期待されています。
また、現在、EVの車体にペロブスカイト太陽電池を埋め込み発電させ、バッテリーに充電する方法も開発されています。軽量で柔軟性の高いペロブスカイト太陽電池をルーフやボンネットに搭載することで、走行しながら充電できるようになると期待されています。
これにより、航続距離がさらに伸びるとされており、EVの課題であった航続距離の短さという課題の解決が見込まれています。
農業分野での応用
ペロブスカイト太陽電池の特性を活かして、農業分野での太陽光発電の導入に関する研究もも進められています。
例えば、ビニールハウスへの太陽電池の設置です。軽量でフレキシブルなペロブスカイト太陽電池は耐荷重が低いビニールハウスの曲面にも設置が可能です。
また、光透過率が高いペロブスカイトを活用することで、太陽光による発電と農作物の光合成に必要な光量の担保の両立が可能になると見込まれています。
農業分野でのペロブスカイト太陽電池の活用により、ビニールハウスの環境管理システムやモニタリングシステムの電源を太陽電力で補えるようになり、さらなる二酸化炭素排出量の抑制がすすむと期待を集めています。
人工衛星での活用
ペロブスカイト太陽電池は地上だけでなく、人工衛星への搭載など宇宙空間での活用も期待が持たれています。
宇宙空間への人工物の打ち上げには莫大な費用がかかります。一説によると1gあたりの物質の打ち上げコストは約100万円と言われており、薄くて軽量なペロブスカイト太陽電池は人工衛星への搭載に適しています。
また、現在、人工衛星には薄膜3接合型化合物太陽電池(以下、薄膜3接合型)と呼ばれる太陽電池が搭載されており、こちらもフィルム型で軽量な太陽電池です。一方で、薄膜3接合型は材料や製造方法が複雑であり低コストでの製造が難しい上に、主な市場が宇宙に限られているため大量生産による低コスト化が難しい状況です。
一方で、ペロブスカイト太陽電池はそもそもの製造コストが薄膜3接合型より低いことに加え、地上用途における需要が見込まれるため大量生産による低コスト化も期待できます。
加えて、特筆すべき点はペロブスカイト太陽電池の高い放射線耐性です。
現在、光変換効率では薄膜3接合型に劣るものの、放射線環境と要求寿命によっては、寿命末期での変換効率は薄膜3接合型と同等になるとされています。
電力の地産地消
ペロブスカイト太陽電池の実用化に伴い、これまで発電できなかった場所でも発電できるようになるため、太陽光発電の発電量は大幅に増加すると考えられています。
市街地のビルの壁面など、様々な場所で発電されるようになり、遠くの発電所から送られてくる電気を使用せずに地元で発電した電気を消費できるようになります。
つまり、電力の地産地消が可能になります。
地元で電力消費すると遠くの発電所から送電の必要がないため、送電の際に起こる電力のロスを最小限に留めることが出来るというメリットもあります。
まとめ
太陽電池は発明以降、性能及び生産性向上により次第に普及が進み、現在では多くの住宅に導入されてます。ペロブスカイト太陽電池の実用化が進めば将来的には住宅のみならず、様々な場所へ導入が進み、太陽光発電の発電量が増えると考えられます。